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糸井重里さんと対談企画⑤コピーを決意した夜。


5)コピーを決意した夜。


糸井
何かで読んだのが、しいたけ.さんはコミュニケーションを「他の人のやりかたを見て覚えた」という。

しいたけ.
はい。ぼくは高校生くらいのとき、まったく会話ができなかったんです。何を喋ればいいのか分からなくて、「ふつうに話せばいい」と言われても、その「ふつう」が分からない。だから急に「ウンコ!」とか叫んで全部を壊したくなる、そんな感じでした。
それで休みの日に公園とかに行って、カップルの隣りに座って、こっそり会話を聞いては、内容をノートにつけてたんです。

糸井
その話、ほんとだったんだ。

しいたけ.
ほんとです。
あと、バイト先とかでもモテる人っているじゃないですか。そういう人の話術をノートに書いて、話し方をコピーしようとしてました。そのうちノートは書かなくなって「あの人ならなんて喋るだろう?」とか、自分のなかに相手を降ろすみたいな感じになったんですけど。

糸井
はぁー。

しいたけ.
10代のときって特にモテたかったり、女の子としゃべってみたかったりするじゃないですか。だけどそれが自分には、もうアメリカ大陸くらい遠かったんですよ(笑)。それで「じゃあ、設計図を持ってる人から盗もう」みたいな感じだったんです。

糸井
そこ、あんがい明るいですよね。

しいたけ.
あんがい明るいんですかね(笑)。とりあえず、そういう他の人のコピーが、ある種のライフワークになってた時期がありました。

糸井
何歳から何歳くらいですか?

しいたけ.
高校くらいから大学卒業までですね。
たとえば高校に入って性に目覚め出すと、モテるための行動が多くなるじゃないですか。そしてカッコいい人って、鞄のおろし方から全部キマってるんですよ。ちょっとワイルドに鞄をドンッて置いて「あぁ、今日ダリい、5限目サボりてえな」とか、カッコいいじゃないですか。

糸井
分かる分かる(笑)。既にモテようとしてるんだよね。

しいたけ.
ぼくがやったら「あ、どうぞお帰り下さい」ですけど。
でも「差はすごくあるけど、真似してればいつかはたどり着くはず」と考えて、映像を目に焼き付けて、公園でひとり練習したりしてたんです。

糸井
あぁ、最高ですね。

しいたけ.
まぁ、活かされることはまったくなかったんですけど(笑)。
ただ、そういう習慣が溜まりに溜まって、意識せずに自然にできるようになったとき、バイト先で「あなた、おもしろいね」となったんです。

糸井
つまり、コピーとしてはじめたものが、どこかで自分になる日が来たんですね。

しいたけ.
来たんです‥‥けど、それが果たして自分なのかっていうのは、もしかしたら一生分からない気がします。

糸井
それ、高校生のときから今までずっと正直すぎるからでしょうね。早い話が、形式だけの「おはようございます」や「いい天気ですね」を嘘だと思うから、「『自分が本当に思う』って何だろう?」と考えはじめたときに、どうしていいか分からなくなった、という話。それでとりあえず練習として、借り物のことばでもいいからカードで出してみようという。

しいたけ.
そうですね。

糸井
それは、ぼくもそうですよ。

しいたけ.
そうなんですか?

糸井
ぼくはコピーをしたわけじゃなくて、「いまの自分の言葉は本心とは違う」とか思いながら、その場でなんとかしたり、このくらいでいいやと思ったり、そのこと自体を忘れたりしつつ、過ごしていた感じですけど。

しいたけ.
へえー‥‥もうすこし話すと、ぼくが他の人のコピーをすることを決意した夜があったんです。

糸井
コピーを決意した夜。

しいたけ.
大学3年生のときにすごく好きな子がいて、しつこくアプローチしてたんですね。彼女が好きな小説を全部読んで、感想文を送ったりとか。

糸井
はい(笑)。

しいたけ.
でも彼女には他に好きな人がいて、ぜんぜん振り向いてくれなかったんです。
でも、ある飲み会の帰りに、ビッグチャンスが訪れたんですよ。彼女がちょっと酔って「彼女と帰り道が同じ方向の人は?」となったとき‥‥自分だったんです。

糸井
ここまででもう嬉しいね。

しいたけ.
そうなんです、もう人生で最大のチャンスがやってきたと。気づいたら、自分の目の前にアメリカ大陸があったんです。

糸井
もう波止場まで。

しいたけ.
波止場が目の前に(笑)。それで一緒に帰ることになって、肩を貸して歩きながら「そろそろ家に着くだろう」って気配を感じたころに、急に彼女が言ったんです。「何か話をしてください」

糸井
おお。

しいたけ.
で、これ、たぶん最後の詰めなんです。難易度的にはチンパンジーでも勝てる将棋みたいな。
でも、ぼくはそのとき唖然としたんです。「え、こういう場面、何話せばいいの?」って。

糸井
たしかに。

しいたけ.
で‥‥いまでも覚えてるんですけど、そのとき泣きそうになりながら、あらゆるパターンをシミュレーションしつつ、頭の中の押入れを探りに探って。
でも探っても探っても、何も見つからないわけです。だから最後に1枚だけ見つけたカードを「これしかない!」と思い切って彼女に言ったんですね。
それが何だったかというと‥‥。

糸井
うん。

しいたけ.
「さるかに合戦についてどう思う?」って。

糸井
(大笑)

しいたけ.
ひどいですよ。

糸井
俺が女なら好きだけど(笑)。

しいたけ.
言った瞬間その場がシーンとして、彼女から肩を外されて「‥‥あ、もう大丈夫です」って帰られちゃったんです。そのとき「この自分で勝負しちゃいけないんだ」ということがはっきりわかりました。自分のオリジナルで出せる手持ちのカードって、こんなにボロボロの、情けないものしかないのかと。

糸井
はぁー‥‥。
だけどそっちのほうが、本当は深いとこでモテますよ。

しいたけ.
今なら自分にそう言ってあげたいですけどね。

糸井
ただ、その子には通じなかった。

しいたけ.
通じなかったですねえ。

糸井
つまり、相手が違ってたんですよね。キングサーモン用の仕掛けで鯉を狙ったんですよ(笑)。それはキングサーモン用の仕掛けですよ。

しいたけ.
そうでしたねえ‥‥。

糸井
「さるかに合戦」と言ってしまったあと、どうすればよかったんでしょうね。

しいたけ.
ああ、それは考えたことなかったです。

糸井
少なくとも、相手の価値観に合わせたセリフが必要なんでしょうね。大笑いしながら謝ったりとか、言ったあとすぐに無理やり「あ、そういう意味じゃなくて」とか。

しいたけ.
それは生き残る気満々ですね(笑)。

糸井
ただまぁ、他に好きな相手がいる女の子は、事故でもないかぎり無理ですよ。どうアプローチしても、結局、巣に戻っちゃうわけだから。

しいたけ.
戻りますねえ‥‥。
で、「女の子が言う彼氏の愚痴を信用してはいけない」というのは、そのときに刻みつけられました。それは「ノロケ」であると。

糸井
若いときに知ってよかったね。

しいたけ.
はい(笑)。

糸井
だけど、こういう人が占いのページを持ってるというのは、やっぱりいいですね。

しいたけ.
そうですね、話すらできない、底辺からスタートした感じなので。

糸井
でも、しいたけ.さんは、そんなに弱々の人にも見えてないから、なにか程がいいんですかね。

しいたけ.
どうなんでしょうね。

(つづきます)

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しいたけ.後日談


この「誰かにモテるためにどうしたら良いのかまったくわからなかった話」って、本当に多くの人達にお伝えしたかった。笑 「好きな人に対してどう話して良いかの全くわからない」というスタート地点から、そこからもがくことってけっこう自分の個性になっていくって。

ただ、やっぱりすごいなと思ったのが、糸井さんが「さるかに合戦と言ってしまった後に、どうすれば良かったのかね?」って。そう尋ねられた時に、僕は当時も今も何も考えていなかったのです。「あー、もう終わった」で終わってしまったのです。

でも、糸井さんが僕にそう尋ねてきてくれたって、「伝える」とか「コミュニケーション」ってすぐそばに失敗しかないよってことなのかも知れないって思いました。

だから、失敗してすぐに「あー、終わった」と心を折るんじゃなくて、そこから何個か「成功」に持っていく術ってあるんじゃないか。

「あー、もう終わった」って簡単には決めつけてはいけないなって思いました。


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