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運命はある

僕らの世代では「神」と崇められたお笑い芸人の方がいて、その人はもちろん現在でも色々な世界で活躍されているのですが、その人が過去に本を出したことがあったのです。

その時の興奮は今でも覚えていて、その本の出版は今から20年ぐらい前で、その当時はまだ芸人さんが「真面目に自分の考えを述べる」というシーンはほとんどなかったし、当時の僕も「あの天才の頭の中が覗ける!」みたいに思って大興奮しました。発売日に本屋さんに買いに行って、1ページ1ページ大切に読みました。

「こんなこと考えているんだ。すごい」と興奮しながら読んだのですが、特に印象に残っていた箇所が、その方が「僕は運命はあると思っています」みたいなことを書いていたことだったのです。

どういう記述だったかというと、その人はお酒が飲めないんですって。でも、その「お酒が飲めない」ということを運命として捉えていて、もし仮にお酒が飲めたら、今日の舞台であんまり笑いが取れなかったりしたり、嫌なことがあっても「よし、飲んで寝よう」みたいな感じで一日を終えることができる。でも、そこでお酒が飲めなかったから「何が悪かったか考えた」みたいなことが書いてあったのです。変な形でリセットをしないとか。ちゃんと考えて一日を終えたいみたいな考えが書いてあった。

「天才」とされる人から「運命」という言葉が出てきたのが驚いたし、そして、その人は「運命」という言葉をロマンティックに使ったわけじゃないことにさらに驚きました。「あの相方に会ったから今の僕がある」とか、そういう形で運命という言葉を使わなかった。

「お酒が飲めないこと」を運命としたということは、おそらくなんですけど、「あー、酒が飲めたらなぁ」と何回か思うような夜もあったかも知れないのです。

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