見出し画像

糸井重里さんと対談企画④校庭の石を拾いたい。


4)校庭の石を拾いたい。


糸井
しいたけ.さんはもともと違和感っていうか、ちょっとした「それは違うんじゃない?」を見つけるのが得意な子どもだったんですかね?

しいたけ.
ああ、そうだと思います。

糸井
全く幸せな人にそういう能力は身に付くんですかね。多少不幸はありましたか?

しいたけ.
客観的に見て不幸なところもたぶんあったとは思いますが、ぼく自身はそこまで自分に起こったことを不幸に感じてない気がします。

糸井
うん、うん。

しいたけ.
ただ、よく「10代に戻りたい」とか言う人がいるじゃないですか。実はぼく、全く戻りたくないんですね。「大人になって良かった」と思うことのほうがずっと多いんです。性格が暗すぎて、10代の一時期、部屋で畳としかしゃべってなかったので。

糸井
そうなんだ。

しいたけ.
それで、時間はたくさんあったから、よく考え事をしていたんですけど、そのとき「体力もない、何の才能もない、何も持ってない自分が、100メートル走で一番いい結果を出すにはどうすればいいか?」ということを熱心に考えていたんですね。
で、何も持ってない自分が「ああ、自分のやりかたはこれだ」と思えた答えって「校庭の石を拾うこと」だったんです。

糸井
はぁー。

しいたけ.
自分の体を鍛えても、走るテクニックを習っても、タイムは多少速くなるだろうけど、たかが知れてる。だけど校庭にある石を拾ったら、自分も走りやすくなってタイムが縮まるし、みんなも走りやすくなって「あいつ、いいやつだ」となる気がしたんです。
さらにそのこと自体をぼくが楽しそうにやってれば、「よくわかんないけどおもしろそうだから手伝ってやろう」みたいな人も出てくるんじゃないかと。そんなふうに考えたことが、今でも自分の原点になっているんですね。

糸井
へぇー。なるほどね。

しいたけ.
だからたとえば自分が占いをきちんと仕事にして生きていきたいと思ったときにも、頭がいい人たちがしてくれたアドバイスって「もっと目立ちなさい」「PRが上手くなりなさい」「人脈を広げなさい」といったものだったんです。
そして、もちろんそのやりかたもそれぞれ正しかったと思うんです。だけど、そういったことについても、ぼくにとっては「石を拾う」こと以上に魅力的な方法だと思えなかったんです。強かったり、すでに能力がある人たちが教えてくれる方法って、自分にはどうも強すぎるように思えることがよくあるんです。弱い人間とか、先天的なセンスに恵まれてない人間ならではの方法って、あると思うんですよね。

糸井
すこし違う見方をするとそれ、「自分はたいしたことない」と決めたときに、すでに勝ってまよね。「なにもできない弱い自分」をスタートラインに置いてしまえば、あとはもうプラスしかないわけで。

しいたけ.
ああ、そうですね。

糸井
あといまの話で、しいたけ.さんは「自分は暗い人間だった」と言ったけど、きっとそれが「いい暗さ」だったんですね。実際、石を拾うことで先がひらけると思えない人も、たくさんいるんですよ。「それが何になる」とか「もっと足が速いやつにはどうせ負けてる」とか考える人も、たくさんいますから。

しいたけ.
はい、はい。

糸井
あと、「自分はたいしたやつなのに恵まれてないから上手くいってないんだ」とか思ってる人は、悪口を言ったり、人の足を引っ張ったりしようとしますし。
だけど心から「自分はたいしたことない」と思ってると、ほかの人にちゃんと「すごいね」って言える。相手がもし「運が良かっただけだから」と言っても、「いやいや、運が良いってすごいことだから!」とか言えるんです。

しいたけ.
その通りです、ほんとですよ。

糸井
だから、一旦でも自分をゼロレベルに置けたら、もう無敵なんですよね。大事なのはそこだと思うんです。「自分はもっとできるのに」とか考えはじめると苦しむんです。だからしいたけ.さんは、畳と喋ってた時代にいろいろ考えて、本当によかったですね。

しいたけ.
はい、自分でもそう思います。

糸井
ぼく自身も、自分がこれまで一番たくさん考えたことって「役に立たない自分が生きてていい理由ってなんだろう?」かもしれないんです。
「誰にも喜ばれてなくて、取り柄もなくて、競争すれば負ける。だけど、そういう俺がいてもいい理由があるとしたら、なんだろう?」
──そうやって考えてきたことが、その後の自分を大きく助けてくれていると思うんですよ。

しいたけ.
ああー。

(つづきます)

===================


しいたけ.後日談


自分でも思うのが、僕が多分世の中のオピニオンリーダーとされる人達との最大の違いって、

・「もっと目立ちなさい」
・「PRが上手くなりなさい」
・「人脈を広げなさい」

ということをあんまり言わないということだと思ったのです。もちろん、これらのことは大切です。批判したいわけでも、否定したいわけでもありません。

でも、なんていうか僕は「体力をつけるためにはまずステーキや焼肉を食べなさい」というアドバイスを受けたら、翌朝お腹を壊すタイプなのです。

ただ、僕自身はそういう「虚弱」を全然自分の弱点だと思ったことがなかったのです。むしろ、虚弱でお腹をすぐ壊してきたからこそ、やさしさという「つよさ」に気づくことができました。

今でも思うのですが、もっとも簡単な運の良くなり方、他人から応援してもらえるやり方って、街のゴミ拾いを気づいたらやることだと思います。それをすると「この人は何かみんないるところをクリーンにする力がある人だぞ」っていう雰囲気が出て、それが雰囲気の自己紹介文になるんです。そういう人って「あいついい奴だよね」って応援してもらえる評価につながるんです。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

いつも温かいサポートありがとうございます。メッセージも読ませてもらっています。僕はこの場所が「近所の寄り合い所」みたいになってくれたらすごく嬉しくて。あなたの声が聞けて嬉しいです。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。