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糸井重里さんと対談企画②話し方の技術よりも。


2)話し方の技術よりも。


しいたけ.
「伝える」という話を続けると、ぼくは「コミュニケーション能力」ということばに、ちょっと抵抗があるんです。

糸井
コミュニケーション能力。

しいたけ.
よく言われますけど、それってなんだか「技術がなにより大事」みたいな考え方だと思うんですね。
もちろんそれが型として役に立つ部分はたくさんあると思います。だけど「その人の話を聞きたい」というのと「コミュニケーション能力が優れてる」って、別の話じゃないですか。

糸井
そのとおりですね。

しいたけ.
すこし話がとびますけど、ぼくは昔、喫茶店やホテルのラウンジで、個人のかた相手の占いをしてたんですね。いまはもうしてないんですけど。
で、そういう場にいるときにときどき、マルチ商法めいたことをしている人を見かけたんです。

糸井
ああー。

しいたけ.
それですごいなと思ったのが、ふと聞こえてくる内容に注意を向けると、完全に音声テープなんですよ。「ポチッと押せば、いつでも同じ話がでてくる」みたいな。

糸井
はい、はい。

しいたけ.
ことばの上げ下げがなくて、常に同じリズム、同じテンポで、誰に対してもしてきた話をここでもしてる、みたいな。相手のかたが何か言っても「そこが疑問かもしれませんが、それはみなさんが心配されることで、大丈夫です。こういうメリットがあるんです」といった定番の返しをするばかりで、心を何も動さずに喋ってる。

糸井
部品を順番に取り出してるわけですね。

しいたけ.
そうなんです。
で、それを聞いて思ったのが、この音声テープの話し方って「コミュニケーション能力」とか「説得の技術」としてのレベルは高いのかもしれないんです。だけど、人と人の関わり合いって‥‥。

糸井
まったく別ですよね。

しいたけ.
あと、ちょっと怖くなったのが、人って何かを信じ込んで「あなたのためを思って」みたいに喋るときに、気づかずそういうことをやりがちじゃないかと思うんです。

糸井
ああ、そうかもしれない。

しいたけ.
だけど、相手のことを思って本当に何かを伝えたいんだったら、そのときやっぱり音声テープでは伝わっていかないと思うんです。
たとえば子どもが万引きをしてきてしまって、自分の横で泣いているとします。そのときにどういうことばをかけるかって、変な話、「一世一代の大勝負」みたいなものじゃないですか。もしそのときに音声テープのような話とか、どこかで聞いてきたマニュアルの話をそのまま言うみたいなことをはじめたら、その瞬間、子どもは気づくわけですよ。
「このオヤジ、ダメだ。裸で向き合う人じゃない」とかって。

糸井
ああ。

しいたけ.
もちろん人って常に、そういうマニュアルや音声テープ側に行く可能性がある。ぼくもそうだし、みんなやりがちなことだと思うんです。
だけど、それでもやっぱり大切な相手に本当に何かを伝えたいと思ったら、正直に、何も持ってない人間として立って、「この機会に何を言いたいか、伝えたいか」っていう恥ずかしさの原点に立ち戻るしかないと思うんですよね。

糸井
なかなか難しいけれども。

しいたけ.
そうなんです、すごく難しいんですけど。
‥‥で、もうすこし続けると、ぼく自身、昔は音声テープ的なきれいに整った話に「すごいな」とか思っていたんですね。けれど、いまはそこが逆転して、マニュアルじゃない話にこそおもしろさを感じるようになっているんです。たとえば結婚式で新婦のお父さんが話すスピーチとかって、前は「長いな」「ちょっと話がわかりにくいな」とか思っていたんです。だけど、いまは「この正直な話こそ伝わってくるよな」とか思うんです。

糸井
それ、ぼくもまったくそう思うんです。きれいに整った音声テープ的な話より、多少ガタガタしてても、その人のことばで伝えてもらう話のほうが、やっぱりおもしろい。そこは「しいたけ.」を「糸井」に変えてもらってもいいぐらいの話ですよ。

しいたけ.
(笑)ただ、そのあたりで難しいなと思っているのが、自分の思いをもっとしっかり伝えたいと思うと、ついついコミュニケーションの技術を勉強してしまって、テープ側に近づいていきかねないという。

糸井
部品の使い方が上手になればなるほど「自分」がいなくなって、機械化するんですよね。

しいたけ.
そうなんです。

糸井
そこは、機械になっちゃったほうがさまざまな物事がうまいくことは、お掃除ロボットの進化の例を見てもよく分かるんです。
で、それで「あなたがやるよりロボットがしたほうが、満遍なくキレイになりますよね。だから、人間がそうなるのがいいですよね」っていうのが今までの時代だったと思うんですね。

しいたけ.
はい、はい。

糸井
だけどそれだと、私がいる理由がないんです。「私が生まれて良かった「いて良かった」っていうのがやっぱり人の、いちばんの喜びなわけだから。

しいたけ.
はあー! そのとおりですね。

糸井
その意味で「ロボットになったほうがいい」という考え方からどうすれば逃げられるかって、そのあたりの大事さに気づけるかどうかだと思うんですよ。

しいたけ.
ああ。「私」は大前提というか。

糸井
そう。そして音声テープをいっぱい持ってて「こうすれば相手を説得できます」というとき、ことばは戦いの道具なんですよね。
でも本当は、ことばって戦いの道具でも何でもないですから。ことばがなくて済めばもっと良かったり、理想的だったりしますよね。

しいたけ.
そうですね。

(つづきます)


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しいたけ.後日談


「また会って話したくなる人は、決して別に高度なコミュニケーション技術を持っている人ではないんじゃないか」

という、根本の話にいつの間にかなっていました。

人はなぜ話すのか。そして、一生懸命話したものでも、人にまったく伝わらない話って残念ながらある。

決してうまい話ではないんだけど、結婚式に参加した時に、なんかよくわからないけど感動して泣きそうになってしまう、花嫁のお友達の話や、お父さんの「整っていない話」って、どうしてそこまで響くことがあるのか。

僕は自分が書いた文章をマネージャーの方とか、周りの方にチェックしてもらって、「ちゃんとおでん感ある?」って確認してます。

技法だけ優れて、味が染み込んでいないものを提供したくないからです。

この話、もっと違う機会で糸井さんにも、糸井さん以外の方にもまたお話を聞いてみたいです。

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