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糸井重里さんと対談企画③遠くに見えるピカピカしたもの。


3)遠くに見えるピカピカしたもの。


しいたけ.
毎週「しいたけ占い」を出していて、ぼくにはひとつ、楽しみにしている瞬間があるんですね。何かというと、1年に1回くらい「この星座の今週の運勢はよく分からない」と書くときなんです。

糸井
へえー。

しいたけ.
実は、占いをしていると、出た結果をどう読み解けばいいのか、どうしても分からないときがあるんです。だからそのときは正直に「今週はいいのか悪いのか、よく分かりません」「たぶん悩み事も解決できないと思うから、願ってください」みたいなことを書くんですね。
もちろん見る人が見たらクレームが来てしまうから、もちろん回り道してちゃんと説明して、どういう経緯でこういう「分からない」っていう結論を出したかをちゃんと書くわけなんですけど。

糸井
はい。

しいたけ.
やっぱり「占い師」といってもすべてがわかるわけではなくて、ぼくがもし「占いをやってるからすべての答えを知っている」という立場になっちゃうと、ことばってもう、絶対に届かなくなると思うんです。
だから、そうやってちゃんと正直になれるときが嬉しいんですね。読んでくれてる人たちとの信頼関係がないとできないやり方なんですけど。

糸井
まさにいまのお話のように、ぼくは「占い」と言っても、その中に「うわぁ、分かりません。一緒に見てみましょう」があってもいいと思うんです。未来がうまく分かったからって、何かがサクセスするとは限らないんで。実際には「分からないけど、一緒に見てましょう」みたいな友だちがいるだけで背負ってる荷物がちょっと軽くなることってあると思うんですよ。

しいたけ.
はい、はい。

糸井
すこしぼくの話をすると、自分にとってのしいたけ.さんの占いって、いつも自分がよけいに考えすぎるのを削る仕事をしてくれてるんですね。ぼくはよく、よけいなことを考えすぎて自分の荷物を不必要に重くすることがあるんです。それを「しいたけ占い」は、毎回だいたい「減らしなさい」って言ってくれる(笑)。で、それは自分でも言ってあげたいようなことだったりするんで、いつも「あぁ、そうだな」って思うんです。重い荷物をしょってようが、軽い荷物をしょってようが、他の人に迷惑をかけるかどうかはあまり変わらなかったりするので。

しいたけ.
ありがとうございます。

糸井
で、さきほどの「手紙」という話で本当によく分かったんだけど、しいたけ.さんって、いろいろな人にとって「あいつに手紙もらって、なんかとても楽になったよ」とか、「グズグズしてたのがあの手紙のことばで前に行けたんだよね」とか、そういうことをしてくれてるんだと思いますね。それは、すごく社会のためになってると思います。

しいたけ.
いやぁ‥‥それは、嬉しいです。

糸井
なってると思うよ、ほんとに。

しいたけ.
自分の占いについて、ぼくがどう考えているかというと、糸井さんが以前どこかで「ほぼ日」という会社について「場を作りたい」という表現をされていたかと思うんですが、ぼくにとっての占いってまさに「場を作る」ような感覚があるんです。

糸井
あ、そうなんだ。

しいたけ.
もちろん場にもいろいろあって、強い人が話しはじめたら全員がそれを聞かなきゃいけないとか、人の出入りがないとか、そういう空間は嫌なんです。
けど、そういうのじゃなくて、もっとみんなにとって自由な場所が作れたらと思っているんですね。

糸井
はぁー。

しいたけ.
それで、ぼくには自分のなかに常に憧憬としてある「場」の景色があるんですけど、それが学生時代のバイト先の控え室なんですよ。

糸井
どんなバイトですか?

しいたけ.
飲食店です。
とてもいいバイト先だったんですけど、そこの控え室が、休みの日に「暇だから」みたいにみんなが来て、勝手に失恋話とかして帰ってくような場所だったんです。働いているとき、ぼくはそこが大好きで「自分はこの控え室をあたためるヌシになろう」みたいなことを考えていたんです。

糸井
うん。

しいたけ.
ぼくは外見が優れているわけでもない、おもしろいギャグが言えるわけでもない、話を振るのが上手いわけでもない、目立たない人間ですけど、いつもその場にいて、別に説教とかアドバイスでもなく、みんながなんとなく話しかけるような人であれたらと思って、そういうことをやってたんです。
‥‥全部で12年やってたから、長くやりすぎたんですけど(笑)。

糸井
あぁ、いいね。

しいたけ.
で、その後、自分がそのバイト先を卒業して大人になったときに「ああいう場所ってあまりないな」と思って、いまは占いで、似たような何かを作れたらと思っているんです。

糸井
なるほどね。

しいたけ.
あと、ぼくは個人的に「目的」ということばがすこし苦手なんですね。「なにかをするとき、必ずしも目的がなくてもいいんじゃないか」と思っているところがあるんです。
「目的」基準で考えることって、ぼくにとってはベンチのない商業施設のようなイメージがあるんですね、「用事がなければ行ってはいけない」みたいな。
でも実はおもしろいことって、井戸端会議とか世間話とか、そういう目的がない場から生まれることがけっこうある気がするんです。だから、その「目的」じゃないところで集まる場ができたら、と思うんですけど。

糸井
「目的」っていうことばで表されるものって、よく「それがあるからしっかりしろ」とか「我慢しろ」とか、そういうもののことを言いがちなんですよね。

しいたけ.
そうなんですよ。

糸井
もちろん「目的」自体がピカピカしてて、楽しくてしょうがなかったら、目的を持つのもぜんぜんかまわないと思うんですけどね。先に見えてるピカピカしたものが、今日の自分を生かしてくれるみたいなことって、ぼくはあると思うんです。たとえばこれを「目的」ということばで言うかどうか分からないんだけど、ぼくはお寿司屋さんの予約があると、数日前から楽しいんですよ。

しいたけ.
ああ、それは楽しいですね。

糸井
ガチガチの「目的」はちょっと息苦しいんです。
でも毎日の中には「そんなに強制力はないのに、あっち見てるだけで嬉しい」というものもある。それこそ、恋をしはじめた少年とか、もう「あの子」がいるだけで嬉しいじゃないですか。何かこう、北極星というか、おおいぬ座のシリウスというか「目に入っている遠くの明るいもの」みたいな存在があるだけで、生きることが嬉しくなるんですよ。
金曜日に翌週の『週刊少年ジャンプ』を待ってる少年とかもいますよね。それ、素晴らしいと思うんですよね。たぶんそういう少年は、土日に死なないと思うんです。

しいたけ.
そうですね。嬉しい、それは。

糸井
「世の中は悪くないものだから明日も生きましょう」とか「今日死んではいけません」といったことば以上に、「月曜日に少年ジャンプが出る」ということが人を元気にするすごみ。
それって、目的とも目標とも言えないよく分からないものだけど、なんだかぼくは「生きるって、その明るいほうを向いてるだけでいいんだ」とよく思うんですよ。そしてイキイキと『週刊少年ジャンプ』を待ってる男の子と、なにかガチガチの目的に縛られて辛そうにしている人がいたら、みんなが話しかけたいのは『ジャンプ』を待ってる男の子のほうだと思うんです。

しいたけ.
はぁー。わかります。

糸井
ぼく自身、そういうものばかり作っていきたいという思いがあるんですけど、しいたけ.さんの作りたい「場」にも、きっと通じるところがありますよね。

しいたけ.
はい、そうですね。

(つづきます)

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しいたけ.後日談


今回、僕がやっている「しいたけ占い」が手紙というコンセプトでやらせてもらっているという話になりました。

僕は自分にとって田舎がなく(両親の実家とも東京にあります)、学生時代の頃とか、地方に田舎がある友達の家に届けられる「ダンボールの中に入っている手紙」にすごく憧れがあったのです。

お米とか野菜とかが入っていて、「これ、冬になって寒くなるといけないから」ってセーターとかもたまに入ってて、そういう「元気でやってるかい?こっちはだいぶ寒くなってきたよ。風邪ひかないようにね」っていう手紙を、ちゃんとしたメディアでやりたかったのです。笑

そうやって届けられた「ダンボールの中に入っていた手紙」って、しばらく冷蔵庫に磁石で貼っておいて、しばらくしたら捨てちゃうような手紙。そういう、出される人にとっての「田舎からのお米と一緒に入った手紙」を今も仕事でやらせて頂いていて本当に幸せなのです。

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